コンサート・バイ・ザ・シー
(CONCERT BY THE SEA)
エロル・ガーナー(EROLL GARNER)の「コンサート・バイ・ザ・シー」(CONCERT BY THE SEA)です。
●COLUMBIAのオリジナル盤、6EYESになります。ちょいとジャケットの異なった種類も出回っていますが、これがオリジナルの写真です。レコード番号は、CL883。
パーソネルは、ピアノにエロル・ガーナー、ベースにエディ・カルホーン、ドラムスにデンジル・ベストというトリオです。
収録曲は、A面に「I’ll Remember April」、「Teach Me Tonight」、「Mambo Carmel」、「Autumn Leaves」、「It’s All Right With Me」の5曲、B面に「Red Top」、「April In Paris」、「They Can’t Take That Away From Me」、「How Could You Do A Thing Like That To Me」、「Where Or When」、「Erroll’s Theme」の6曲、計11曲です。
このレコードは1955年にカリフォルニアのカーメルで録音されたライブ盤です。演奏会場が教会だったとかで、ライブにしては当時では相当優秀な録音だろうと思います。快調な演奏を楽しめる1枚で、エロル・ガーナーはこういう雰囲気でますますノッテいくエンタの一人ですね。そこいらで「ウーアー」と唸っていますから、よほどご機嫌だったんでしょう。どこかで聴いたようなフレーズを始めとして、どんどん湧き出るフレーズは正に彼の真骨頂で、エキサイト振りを如実に感じさせてくれます。
エディ・カルホーン(キャルホーン?)という人は他でも聞いたことがないのですが、その昔には「ヘイスタック・カルホーン」というプロレスラーがいました。「人間空母」とかいう異名で、オーバーオールを着込んだ風体で、力道山や馬場と対決していたのを思い出します。得意技は「フライング・ソーセージ」とか「ヒップ・ドロップ」だそうで、要は倒れた相手にそのまんま体で圧し掛かるとか、相手の上からお尻で潰そうとする圧迫技なのでした。体重は280kgほどあったそうですから、ハーレー・ダヴィッドソンが体の上にこけてきたようなものですね。そりゃ大変だったでしょう。体重300kgのハッピー・ハンフリーとの対決は伝説だそうで…。で、件のベーシストのエディ・カルホーンについての詳細は不明です。なんのこっちゃ。
閑話休題。さて、A面1曲目の「I’ll Remember April」ですが、出だしに相応しく快速調で続きます。ベースやドラムスはあんまり聴こえませんね、ガーナーのスイング感のみ目立ってます。
2曲目の「Teach Me Tonight」、ナニを教えてほしいのかよく分かりませんが、意味深なタイトルではあります。「今夜、教えてね」、「また、この子ったら、ウフフ」みたいなノリでしょうか…。ウーウー・イーイー・アーアーと唸りのガーナーです。教えてもらうと唸るのでしょうね、羨ましい。左手の強力なプレイが一際印象的で、どんなゴツイ手だったのか見たくなりますね。
3曲目は「Mambo Carmel」、カーメルのマンボですかね。そういえば、この前「天神さん」に行ったのですが、昔ながらの「べっこう飴」や「カルメ焼き(カラメル)」が売っていました。カーメルとカラメルは似てますけど、何か関係あるんでしょうか。適度なテンポとリズムで楽しめます。
4曲目は「Autumn Leaves」、あの有名な「枯葉」です。「枯葉」といえば、真っ先に思い出すのがビル・エヴァンス・トリオの演奏ですね。ここでは、そういったインター・プレイがビシバシという演奏ではありません。控えめなバッキングに乗って、ガーナーが一応しっとりとプレイしています。が、ところどころにバコバコ・フレーズを交え、結局はガツンガツンの枯葉になってしまいます。イカにもタコにもの演奏です。いいなー、ガーナー。
5曲目は「It’s Allright With Me」、俺に任せとけみたいな意味なんでしょうか。ガーナーに任せておくと、勝手に体が揺れてイー気分です。豪快にウーアー唸って、これぞガーナーの真骨頂です。アメリカ人好みのビッグな演奏とはこういうことかもしれません。襟を正して正座して聴くのが全く似合いません。
長くなりまして恐縮ですが、B面1曲目の「Red Top」は、これもナイスなテンポで、聴衆を喜ばせる術を知りえたエンタそのもの。どこかで聴いたフレーズがポンポン出てきてニンマリしちゃいます。
曲目は「April In Paris」、有名なのはベイシー・バンドの演奏ですが、ここでのガーナーはしっとり風でやっつけてます。ベースもドラムスもほとんど聴こえてきません。あっ、ソロだったのね、と思ったら、途中からベースとドラムスが聴こえてきました。ソロでもいいのに…。
3曲目は「They Can’t Take That Away From Me」、試しに翻訳ソフトで訳してみたら「彼らは、それを私から取ることができません」だとさ、まあ、間違ってはいないのですが、さすがに翻訳ソフトです。ボーカル曲としても有名なこの曲を、例によってバコバコ・パキパキ・フレーズで料理していますが、これが快感なんですう。反則スイングのお勉強にも適しています。
4曲目は「How Could You Do A Thing Like That To Me」です。「何でそうなるの」みたいな意味ですか。コント55号もアメリカで有名だったようで、当時のテレビ番組が懐かしくなります。そういえば最近、二郎さんはあんまり見かけませんね。ご病気だったとか聞いていますが、どうしておられるのでしょう。演奏自体はちょいと大人しめに、時折りのバコンバコンで快調です。
5曲目は「Where Or When」、「いつか、どこかで」です。シナトラの名唱が思い出されます。ところがクラシックしか聴いたことのないような方がこれを聴いたら、目からウロコものです。溢れ出るフレーズの洪水に溺れること必至で、大体溺れそうになると必死にはなるものですが、そんなに溺れささないで。
最後は「Erroll’s Theme」、正にテーマだけであっという間におしまいです。誰か知りませんがメンバー紹介をして、何やら質問したところ、ガーナーの答えが「ルイ・アームストロング」というところでホントにおしまいでした。
いずれにしてもガーナーのレコードでは、このアルバムは横綱級に位置するもので、これ1枚で事足りるとされる向きも多いようです。ガーナーのプレイが好きになれば、逆にこれは入門用でもあります。この後は「MISTY」や「MOST HAPPY PIANO」辺りでお楽しみください。
※このレコード評は、旧き佳き時代とジャズへの想いを込めた音化店主:能登一夫の評文です。