kenny_dorhamメモリアル・アルバム
(MEMORIAL ALBUM)

ケニー・ドーハム(KENNY DORHAM)の「メモリアル・アルバム」(MEMORIAL ALBUM)です。
●XANADUのオリジナル盤かと思いきや、その後LAのCREAMレーベルからリリースされた復刻オリジナルでした。レコード番号は、そのまんまXANADU125、モノラルです。

大体XANADUのリイシュー・シリーズ自体が生粋のオリジナルではありませんし、おまけにCREAMだということで、要はマイナーレーベルによる復刻盤です。

元々は「JARO」という幻のレーベルとされるところから「THE ARRIVAL OF KENNY DORHAM」としてリリースされたそうで、確かにレーベルの「JARO」は、あまり聞きませんね。テレビで「JAROって何じゃろ~♪」というフレーズなら聞いたことがありますが、それとは別物のようです。

このレコードは1960年に録音されたもので、ドーハムとしては正に絶頂期に当たりますか。レーベルのメジャーさから「QUIET KENNY」や「CAFE BOHEMIA」が有名なドーハムですが、実はそれらに優るとも劣らない、すなわち優るレコードがこれでした。

大体「QUIET KENNY」なんてアルバムを出したもんで、ケニーは静かなオッサンなのかと勘違いする人が多いそうです。さにあらず、静かどころか結構ハードな演奏が身上のケニーでした。身上と言えば、元日本ハム(もしくは元メッツ、あるいは元阪神)の新庄はどうしてるんでしょう?一説によると現役復帰するんじゃないかといったデマも耳にしますね…。

閑話休題。JARO自体が幻のレーベルで、折角復刻したXANADUも今となっては知らない人のほうが多いような現状ですが、このXANADUのゴールド・シリーズは良心的な復刻で一時は持て囃されたものでした。ただジャケットデザインを強引にゴールド化したので、嫌っている人も居られるようです。

ゴールド・シリーズはモノラルの仕様が大半で、これも例に違わずモノラルなんですが、音質は中々に重心の低い傾向で聴かせてくれます。下手にステレオにして薄っぺらになったものとはちょいと違います。

さてパーソネルは、トランペットにケニー・ドーハム、バリトン・サックスにチャールズ・デイヴィス、ピアノにトミー・フラナガン、ベースにブッチ・ウォーレン、ドラムスにバディ・エンロウというクインテット構成です。チャールズ・デイヴィスって、どこかで聞いたような名前ですが、どこにでもある名前と言えばその通りで、結局はチャールズ・ミンガスやチャールズ・ロイドとマイルス・デイヴィスやリチャード・デイヴィスなんぞをゴッチャにしていたわけで、実はよく知りませんでした。なんのこっちゃ。

収録曲は、A面に「Stage West」、「I’m An Old Cowhand」、「Songs Of Delilah」、「Butch’s Blues」の4曲、B面に「Stella By Starlight」、「Lazy Afternoon」、「Turbo」、「When Sunny Gets Blue」、「Six Bits」の5曲、計9曲です。

1曲目の「Stage West」はドーハムのオリジナルです。バップのようなファンキーなような、案外に複雑なテーマでヨガラセます。万人受けを狙ったものではなくて、これが分かればツーでカーよといった風情を思わせる名演でした。分かったような顔をするには持って来いの曲じゃないでしょうか。急速調のバリバリで、この1曲で買って良かったなと思わせてくれます。ただ、このテンポにバリトンは少々荷が重そうではあります、ホガホガいってますね。

2曲目は、ご存知「おいらは老カウボーイ」でして、誰がこんな間の抜けたアホたれ邦題を付けたのか知りませんが、大したもので尊敬に値します。何といってもロリンズの名演が有名ですが、チャカポコしたシェリー・マンのイントロ(ココチチ、ココチチ、ココチチ、ドンとも言いますが、「ここ乳」とはこれ如何に…)とはうって変わったトミ・フラの、顔に似合わない優しげなイントロで始まります。その後は「へたれ」を意識したかのようなドーハムのソロが効いてます。邦題に合わせたわけではないでしょうが、トボケタ表情が何とも言えませんね。ボケのふりをするのは簡単なような難しいような、判断に苦しみます。

3曲目は「デライラの唄」、サムソンとデリラでしたっけね、出典は。ムードミュージックと間違いそうなトミ・フラのイントロが笑かします。続くミュートがまたボケまくりで、オマケの(?)バリトンもつられてボケてますね。

4曲目はブッチ・ウォーレンのオリジナルかと思いきや、そうではなくてドーハムのオリジナルなのでした。全編に渡ってウォーレンのソロをフィーチュアしてますから、後から「ブッチのブルース」と名付けたのかもしれません。ファンキー色をやや濃い目に表現したこれは楽しめます。と思っていたら意外にもすぐに終わっていました、残念。

B面の1曲目は、ご存知「星影のステラ」です。マイルスの演奏が有名ですが、ここでのドーハムも何匹目かのドジョウを狙ったミュートです。ほとんどマイルスじゃないの、と言うべからず。大体がミュートを使うとマイルス似になってしまうのが世の常なのでした、マイルスはやっぱりエライんですね。と思っていたら、途中からテンポアップして、仕掛けの妙を感じさせてくれるヒネリのアレンジでした。少しは考えてるんだドーハムも(ボケ顔でも)。その後のバリトンがまたしてもボケ味たっぷりに聴かせてくれます。ちなみに日本で有名な「星影のワルツ」とは別物ですからお間違いなきよう。そういえば久々に千昌夫がNHKに出ていましたね、普段は何してるんでしょうね。「オラ、金持ってるぞ!」、懐かしいフレーズではあります。

次は「Lazy Afternoon」で、確かに午後は眠くてサボりたくなりますね。調子に乗ってランチを食べ過ぎたりすると、苦しいのと眠いのとで昼寝を貪りたくなるのが人情でして、私もよくします。という雰囲気にピッタリなディープな名演です。どこまで落ちていくのか分からないような、放っておくと蘇れないヨミの国…、てなもんですか。このまま起き上がれなかったらどうしよう。

さて、お次は「Turbo」で、一転して陽気な雰囲気で盛り上げてくれます。結構アルバム構成も考えてるんじゃないの、ドーハムさんよ。TURBOと言えば、どうしてもクルマのターボですね。ブルーバードのターボが出たときは羨望の的で、その後のドッカン・ターボには若気の至りで憧れました。何せホントに背中がシートの背もたれに押し付けられるんですから、あの感触は堪えられませんね。一番凄かったのはランタボ(ランエボともいう)でした。曲自体は際立った抑揚もなく終わりますので、ナニがターボなのかよく分かりません。作者がDavisとありますから、バリトン吹きのデイヴィスさんなのでしょう、やっぱりよく分からない存在でした。

続く4曲目は、ドーハムではなくて、よく分からなかったデイヴィスさんをフィーチュアしたナンバーです。このくらいの調子だといい感じに聴こえるデイヴィスさんでした。

最後は「Six Bits」です。8ビットとか16ビットは聞いたことありますが、6ビットは知りませんね。作者を見てもマニー・アルバム?、誰だそりゃ、といった感じで、よく分かりません。しかも「Album」ではなくて「Albam」ですから尚更分かりませんね。ジャケット裏のライナーにも表記がなく、ますます謎な1曲でした。曲自体はファンキーなイメージで、普通に聴かせてくれますから、詮索は止めておきましょう。

というわけで、幻の名盤化していたこのアルバムですが、蘇らせてくれたドン・シュリッテンに感謝すべきものがある名盤じゃないかと思っています。


※このレコード評は、旧き佳き時代とジャズへの想いを込めた音化店主:能登一夫の評文です。