gary_burtonゲイリー・バートン & キース・ジャレット
(GARY BURTON & KEITH JARRETT)

ゲイリー・バートン、キース・ジャレット(GARY BURTON, KEITH JARRETT)の「ゲイリー・バートン & キース・ジャレット」(GARY BURTON & KEITH JARRETT)です。
●ATLANTICのオリジナル盤、ステレオ仕様になります。レコード番号は、SD-1577。

このレコードは、1971年にニューヨークで録音されリリースされたもので、正にキース・ジャレットが日本でブレイクする直前を捕らえた貴重な時期の記録になりますね。

パーソネルは、ヴァイブにゲイリー・バートン、ピアノとソプラノサックスにキース・ジャレット、ギターにサム・ブラウン、ベースにスティーブ・スワロー、ドラムスにビル・グッドウィンというクァルテット構成です。

収録曲は、A面に「Grow Your Own」、「Moonchild In Your Quiet Place」、「Como En Vietnam」の3曲、B面に「Fortune Smiles」、「The Raven Speaks」の2曲、計5曲になります。この内、A面の3曲目「Como En Vietnam」だけスティーブ・スワローの作になるもので、他の4曲は全てキースのオリジナルという記載があります。

時期的にはゲイリー・バートンの方が有名で、既に「葬送」なんていうアルバムでそれなりの名声を博していましたから、当初キースはタイトルには出てくるもののサイドメンの一人という扱いだったんだろうと想像されます。しかし、内容はキースの方が目立ってるかもしれません。ほとんどの作曲を手掛けていることからも明らかなように、キースのアルバムと解釈しても当たらずとも遠からずでしょう。

さて、A面の1曲目は「Grow Your Own」です。自分で育てようみたいな意味なんでしょうが、翻訳ソフト(最近、これに凝ってます、ケッサク和訳が見られますから)によりますと「自分のものを栽培してください」だそうです。一体自分のナニを栽培するのか興味が湧きますね、流石は翻訳ソフトです。演奏は昔のキース(Somewhere Beforeなんかね)を髣髴とさせるような感じで、エキセントリックなギターがイー感じです。70年頃を感じさせるジャズには違いありませんから、結構楽しめます。

2曲目は「Moonchild In Your Quiet Place」です。「あなたの静かなところの蟹座生まれ」(翻訳ソフト)。案外にこれが、実は一番受けそうな曲かもしれません。バートンのヴァイブが綺麗に響いて、キースやその他の連中はバッキングに徹しているのか、と思いきや途中からキースが後の活躍を窺わせるようなソロを展開します。といってもジャズか何か分からないような出来ではなくて、しっかりジャズしてるのが笑わせます。

3曲目が「Como En Vietnam」です。これのみスティーブ・スワローの作ですけど、ギターの響きが私には快感でして、ソニー・シャーロックとまでは至らないにしても、中々飛んでて、イーじゃないのオッサンよ。誰だったっけギタリストは? サム・ブラウンですね。意外と保守的なグループにも居たそうですが、結局は1978年に39歳でお亡くなりになりました。ヤク漬けだったんでしょうかね、惜しいです。

B面に移って、1曲目が「Fortune Smiles」です。フォーチュンといってもソニー・フォーチュンが微笑んでいるわけではなくて、「幸せの微笑」てな感じですか? バートンの幸せそうなソロが続き、受けたキースも嬉しそうですね、ホンマかいな? 実は全くのフリーに変貌して驚かせつつ微笑ませてくれます。その後はやっぱりのホンワカムードで締めくくります。

2曲目が「The Raven Speaks」で、これで最後です。「からす座は話します」だってよ、何なんだそりゃ。のっけからギターの響きがイカシテまして、このまま行くんかいなと思いきや、そうでもない展開でした。ハービー・マンほど寛容ではないのね、バートンは。60年代後半からのジャズによくある展開で、それはそれなりに安心して聴けます。と思っていたら、途中で渋いギターが現れまして暫くはギョイーン、ウィーンとさらけ出してくれました。続くのがキースのソロで、ウーム極めて普通で面白くないと感じないではありません。いい子ぶっていたんでしょうね、きっと。その後、バートンが登場してハッピーに終わりそうなんですが、最後にソプラノ・サックスでキースが決めているようなエンディングでした。で、おしまい。

この頃キースは、かのマイルス・デイヴィスのグループにも在籍しつつトリオやアメリカン・クァルテットなどのグループでもアルバムをリリースしていました。あの「Facing You」がリリースされるのはこのアルバムの翌年です。大体、「Facing You」が出ても、当時はチック・コリアがRTFやソロで勇名を馳せていましたから、いまいち日本では受けが悪かったですね。そんな頃、かのSJ誌のインタビューで秋吉敏子さんが「キースの方がチックよりも数段上のピアニストよ」と述べていたのを思い出します。別に秋吉敏子さんの言だから信用するべしとは言いませんが、アメリカのジャズ・シーンを直接見ていてついつい言葉にしたんだろうと思います。同じ頃、私は秋吉敏子さんより秋吉久美子さんに興味がありましたね…。

1973年から1975年で、あの有名な「Solo Concert」や「Koln Concert」をリリースし、「ソロピアノのキース」を確立してしまいます。もちろん、アメリカン・クァルテットやヨーロピアン・クァルテットでも活躍しますが、もっぱら「ソロのキース」が巷間話題になる筆頭でした。

このアルバムでのキースは、アメリカン・クァルテットほど尖鋭的ではなく、一応リーダーのバートンに敬意を表しつつプレイしたような感じです。それでも内容のほとんどを自作で埋めて、ヤル気は十分だったようです。

一方のバートンですが、このアルバムをリリースした同年に「Alone At Last」を録音しており、これはグラミー賞を貰うほどの話題作でした。日本でもそれなりに評価された名盤だったようで、一時は私も探したものです。さらに、この翌年に彼はチック・コリアと「Crystal Silence」を録音し、その後もチックとのデュエットは永年に渡って続きます。スイスでのライブ盤などは未だに私の愛聴盤なのでした。彼にとってはキースよりチックの方が相性が良かったんでしょうかね。オトコの世界には常人には分からないことも多いようですな。

というわけで、この頃に絶頂だったのはもちろんバートンの方で、キースはマイルス・グループに片足突っ込んだ、やや中途半端な状態だったことは疑いありません。

で、ジャケットを眺めてみますと、何だかキースの方がエラそうではあります。バートンが大人しめに腰掛けている丸太に片足を掛け、自信たっぷりにあらぬ方向を眺めているショットは中々に笑かしてくれます。裸足にサンダルを引っ掛け、ランニング(タンクトップともいう)から結構マッチョな両腕を露出し、アフロヘアーのキースが存在感たっぷりですね。片やバートンは内股にはなっていないものの行儀よく丸太に腰掛けてカメラの方を見つめていますが、シャツとベストの組み合わせもあって、どことなくひ弱な感じを醸し出しており、ジャズ界の「みなみらんぼう」を見事に演出しています。皮肉っぽく見るつもりはないにしても、そんな風に見えてしまう好ショットですね!

いずれにしても、マイルスの影響もあったのか、ロックやアメリカン・ポップスを上手く消化したようなキースのプレイが目立っちゃう好盤です。全体として初期のジャズ・ロック(フュージョンともいう)を現出していますから、この辺の音楽がお好きな御仁には堪らない1枚でしょう。私もその一人です。


※このレコード評は、旧き佳き時代とジャズへの想いを込めた音化店主:能登一夫の評文です。