art-tatum_otokaザ・テイタム・グループ・マスターピース
(THE TATUM GROUP MASTERPIECES)

アート・テイタム(ART TATUM)の「ザ・テイタム・グループ・マスターピース」(THE TATUM GROUP MASTERPIECES) です。
PABLO JAZZ CLASICSの復刻によるオリジナル盤、ステレオ仕様になります。レコード番号はMHS-7153T。

このレコードは1955年に録音され、1970年代に復刻されたもののようで、PABLOとしてはオリジナルに近いのですが、厳密にはリイシューに属しますのでご注意ください。

パーソネルは、ピアノにアート・テイタム、ヴァイブにライオネル・ハンプトン、ドラムスにバディ・リッチというトリオ構成になっています。リーダーが唯一無二に等しいアート・テイタムその人です。「アーっと、手痛む」じゃないですからね(実は適当に変換するとこういう変換が出てくることもあるそうです、ホンマかいな?)。

収録曲は、A面に「This Can’t Be Love」、「Stars Fell On Alabama」、「Lover Man」、「Prisoner Of Love」の4曲、B面に「Love For Sale Ⅰ」、「Love For Sale Ⅱ」、「Body And Soul」、「Please Be Kind」の4曲、計8曲になります。

まあメンバーの誰もがいわゆるヴァーチュオーソで、傑出したテクニックを持った御仁ですから、聴かなくても出来栄えは分かろうというものです。それでもテイタムのプレイにはそれらをも超越した神がかり的なものがありますから、ソロを取ろうがバックに廻ろうが目立つことには変わりありません。

1曲目の「This Can’t Be Love」からテイタムとハンプトンがバリバリですね。リッチは遠慮してかそれなりのプレイなんですが、後の二人は何とも形容し難い張り切りようです。後ろで唸っているのは一体誰なんでしょう? 結構目立つ唸りでした。曲名は「これは愛では有り得ません」というものですが、愛でなければ何なんでしょうか、気になりませんか?

2曲目は「アラバマに星落ちて」というそのまんまの邦題が付く有名曲です。ミディアム・スローでしっとりと聴かせます。
前半はリッチのドラムスがあんまり聴こえません。二人のプレイに呆れてトイレでも行ってたんかいな、と思いきや後ろでささやくブラシを奏でていました。ミディアム以下のテンポでもテイタムは音が多い傾向があるんですが、それがジーン・ハリスやマッコイ・タイナーのようには聴こえないのは何故でしょう。必然的にそういう音の配列であるがごとき演奏です
から、快感です。

3曲目も有名な「Lover Man」で、テイタムは相変わらずの巨匠ブリ(どんなブリだと問われても、答えようがないのですが、寒鰤ではなさそうです)を発揮し、リッチは怖気づいたようなバッキングで笑かしてくれます。ハンプトンも少々遠慮がちに聴こえますね。テイタムの存在感を知らしめてくれる演奏かと思います。

4曲目は「Prisoner Of Love」です。愛に自由を奪われた者、愛の虜ですね。「あなたと逢ったその日から恋の奴隷になりました~」は奥村チヨです。彼女は今どうしているのでしょう? 浜圭介と結婚しちゃったんですが、当時は残念だったものです。恥ずかしながら私は彼女の隠れファンです、くやしいけれっど幸せなのよ~。で、演奏ですが、やっぱりミディアム・テンポで切々と迫ります。前半はハンプトンのポヨヨ~ン・ヴァイブがイカシつつテイタムのピアノに絡んで、洒落てます。

中間はハンプのコツコツ・ヴァイブにテイタムが絡みます。テクニシャンの絡みはやっぱりコーフンしますね。

B面に移って、1曲目は「Love For Sale Ⅰ」です。2曲目も「Love For Sale Ⅱ」なんですが、2回も愛を売り物にするとは中々やりますね。愛を売れば「売春」で買えば「買春」でしたっけ…。「Ⅰ」は、のっけからコンガ(?)でちょいと引かせてくれます。こけおどしで攻略しようという虚勢がミエミエでした。その後は暫くテイタムとリッチが絶妙のコンビネーションで、漸くリッチが活躍したな。ここでハンプはお休みかいなと思っていたら、真ん中くらいから出てきました。ハンプトンだけに愛を頒布しないわけにはいきません。「Ⅱ」では、普通にドラムスからスタートです。コンガは懲りましたかね。タッチが微妙に優しくなっています。2回目ともなれば激しいのは嫌われますもんね。やっぱりハンプは途中から参加です。ハンプトンだけに半分だけ参加、ってなもんですな。

3曲目が、またまた有名な「Body And Soul」。テイタムの前奏からテーマはハンプに移って、その後はまたテイタムですが、硬軟兼ね備えたテイタムのピアノは一味違います。コロコロ・タッチとバコバコ・タッチのコラボレーションが妙味でやんす。

最後の曲が「Please Be Kind」で、「親切にせいよ」みたいな邦訳ですか。テイタムのタッチは、タイトル通りにやさしくスタートします。釣られてハンプもソフトに迫ります。終わり方も、ハイお見事でした。

曲目を続けてみていくと、「こんなのは愛じゃねえ」と悲しく「アラバマに星落ちて」、「愛する人」の「虜」になりつつ、「売り物の愛」に2回勤しんだものの、「身も心も」捧げるから「やさしくしてね」ってことですか。何だかストーリーができそうで笑えませんか?

アート・テイタムは生まれつき片目の視力がなく、もう片方も非常な弱視というハンデを負った人でしたが、幼い頃からピアノとバイオリンで稀にみる才能を発揮したらしく、10代でプロ活動をはじめるいなや、あっという間にジャズ・シーンにおける注目すべき存在になりました。ピアノの88鍵をフルに用いた彼の演奏は、ミスタッチなどほとんど感じられない超絶技巧で、絢爛豪華な演奏は万人の賞賛するところとなりました。

同じ業界のジャズピアニストからの賛辞は枚挙に暇がありません。さらにクラシック界の巨匠であるウラジミール・ホロヴィッツでさえ、わざわざテイタムの出演するクラブに出掛け、諸手を挙げて賞賛したと伝えられています。


※このレコード評は、旧き佳き時代とジャズへの想いを込めた音化店主:能登一夫の評文です。







art-tatum_otokaザ・テイタム・グループ・マスターピース
(THE TATUM GROUP MASTERPIECES)

アート・テイタム(ART TATUM)の「ザ・テイタム・グループ・マスターピース」(THE TATUM GROUP MASTERPIECES) です。
PABLOの復刻によるオリジナル盤、ステレオ仕様になります。ただし「NOT FOR SALE」の見本盤です。レコード番号は2310-735。

このレコードは1956年に録音され、1970年代に復刻されたもののようで、PABLOとしてはオリジナルですが、厳密にはリイシューに属しますのでご注意ください。日本では1970年代初頭にVERVEからリリースされた「PRESENTING THE ART TATUM TRIO」に相当します。

パーソネルは、ピアノにアート・テイタム、ベースにレッド・カレンダー、ドラムスにジョー・ジョーンズというトリオ構成になっています。テイタムのトリオ演奏は意外に少なく、このアルバムが代表的な作品になりますね。VERVEではこれ1枚きりだったようです。

収録曲は、A面に「Just One Of Those Things」、「More Than You Know」、「Some Other Spring」、「If」、「Blue Lou」の5曲、B面に「Love For Sale」、「Isn’t It Romantic」、「I’ll Never Be The Same」、「I Guess I’ll Have To Change My Plans」、「Trio Blues」の5曲、計10曲になります。

没年に録音されており、数少ないテイタムのピアノ・トリオ・アルバムとして最も有名なものです。1930年代から活躍した彼ですが、ジャズ界以外からも高く評価されたその圧倒的な演奏技術は聴く者を震撼させるのに十分以上のものがあります。ジャズ・ピアノの歴史に名を残す傑作と言って過言ではないでしょう。

ちょうどVERVEのレコードが日本盤で発売された頃、何とこの演奏をAM放送で聴きました。ちょいとジャズに興味を持ち出した頃で、ジャズと名のつく番組を見境いもなく探し、安手の録音装置で録音して聴いていた頃でした。今でも憶えていますが、親父から譲ってもらったソニーのトランジスタ・ラジオの出力を、これまたソニーのオープンリールに繋いで録音してました。いわゆるオープン・デッキではありません。モノラルで5号リールしか掛からないけれど、スピーカーが付いていて単独で再生できる、要するに「テープレコーダー」でした。大体このテープレコーダーを買ってもらった理由は英語の勉強のためでして、その教材は5号リールのオープンしかなかったのでした。で、件の私は英語のテープを消去してジャズを録音していたのですから、何とも親不孝で、おかげで未だに英語はまともに喋れません。

なんの番組だったかよく憶えていないのですが、確か「近畿放送」でした。今は「KBS京都」といいますが、相変わらず「近畿放送」と言ってしまう自分の歳がバレますな…。全然知らない「アート・テイタム」という名を初めて聞き、またプレイに度肝を抜かれました。こんなプレイヤーが存在したんだという驚きと、その演奏にジャズへの認識を新たにしたものです。そのとき聴いたのは、「Just One Of Those Things」、「More Than You Know」、「If」、「Trio Blues」などでしたが、すぐさまレコード屋さんに出向き、件のレコードを購入したことを昨日のように思い出しますね。

ラジオから流れてくる女性アナウンサーの紹介に続いて聞こえてきたのが、この1曲目「Just One Of Those Things」だったのです。ジャズに興味を持って聴きだした頃とはいえ、ほとんど知識もなく、演奏の巧拙もよく分からないガキンチョだったのですが、そんな稚拙な耳を驚かせるに十分すぎるほど強烈な一撃でしたね。それから暫くは、風呂に入ってても何となく口ずさむほどでした、恥ずかしながら。

聞いたこともない名前だったのですが、何だか凄いオッサンだということは初心者の私にも分かりました。その後、友人からは半ばバカにされつつもテイタムのレコードを漁っていたことも事実で、「ESSENTIAL」や「HUMORESUQUE」などは無くすことなく今も手元にあります。そういう原体験的な出来事は時を経ても忘れることはないようです。

アート・テイタムは生まれつき片目の視力がなく、もう片方も非常な弱視というハンデを負った人でしたが、幼い頃からピアノとバイオリンで稀にみる才能を発揮したらしく、10代でプロ活動をはじめるいなや、あっという間にジャズ・シーンにおける注目すべき存在になりました。ピアノの88鍵をフルに用いた彼の演奏は、ミスタッチなどほとんど感じられない超絶技巧で、絢爛豪華な演奏は万人の賞賛するところとなりました。

オスカー・ピーターソンが彼をアイドルにしていたことは周知の事実ですが、かのチック・コリアでさえ彼を神格化しているのには驚きました。正にピアノ界におけるチャーリー・パーカーみたいなもので、全てのジャズ・ピアニストが尊敬して余りある存在にほかなりません。

というような別格のテイタムですので、余計な寸評は止しておきます。
かく言う私も一時はアート・テイタムを聴かずに過ごしていましたが、今更にして聴いてみますと、その力量やプレイのレベルはやはり比肩するもののない唯一無二のものだと再認識しました。いつ聴いてもシビレます。


※このレコード評は、旧き佳き時代とジャズへの想いを込めた音化店主:能登一夫の評文です。